トップページに戻る

第三話 食物連鎖の頂点に立つ者(前編)

「はっ…はっ……」
彼女の息使いと足音だけが、住宅街の中で響いている。

時刻は夜の8時前後。曜日は日曜。
日は完全に沈み、大部分の人々が自宅で休息を取り、そうではない人々は駅前の商店街で遊んでいる時間帯。
その為、駅から少し離れたこの住宅街は人の気配が全くなく、辺りは静寂と暗闇に包まれていた。

「ッ…はっ…」
そんな住宅街を彼女は、ふらつきながらも必死に走っている。
時間に換算すると、彼女の体感では5分ぐらいだろうが、実際にはすでに30分を超えていた。

目的地があって走っている訳ではない。
彼女はただ逃げる為に必死に走っていた。

壊れかけた街灯の薄く点滅した光が照らし出す、そんな彼女の姿は異常だった。
キレイに整えられていたであろう髪型と服装はすでにグチャグチャで、靴も履かずに裸足で走っている。
また、走り方も一升瓶の日本酒を飲んでしまったかの様にふらふらで、目も焦点が合っていない。
彼女は混乱していた。
それでも彼に言われたとおり、彼女は懸命に逃げていた。

「どうして私は逃げているんだっけ?」
真っ白な頭の中で彼女は自問自答し、逃げる原因となった先ほどの出来事を再び思い出そうとする。
今日の昼間、彼と水族館へデートに行った記憶が蘇り、そしてその後、初めて彼の家に遊びに行った記憶がよみがえ……っ!!
だが、頭に残っている微かな理性がそれを無理やり中断させる。
思い出してはいけない。
思い出してしまえば、あの事実を認める事になってしまうのだから…

!!!??
突然、体に衝撃が走り、体が後ろに吹き飛ぶ感覚を味わいながら、彼女は地面に尻餅をついてしまった。
どうやら、何かにぶつかってしまったようだが、混乱している今の彼女には痛みを感じる余裕はなかった。
しかし、彼女にぶつかった人間は当然痛みを感じたようで、「いたたた…」と、女性?…いや、綺麗な男性の声を彼女の目の前から発する。

急に目の前から聞こえた人の声に、体をビクリと震わせながら彼女が顔をあげると、そこには白衣を着てリードを持った男性が立っていた。
? その男性を彼女は知っているような気がしたが、思い出す余裕は今の彼女にはなかった。

というよりも今は他人にかまっているヒマはない。私は逃げなければならないのだから。
彼女が立ち上がろうとした時、「どうしたんだい?綺麗な顔が台無しだよ?」と、目の前の男性から透き通る声が掛けられた。
!! その一言で彼女は本能的に初めて気が付いた。
逃げるのではなく、助けを呼ばなければならないと。

「た、たすけ、助けてください! このままだと…このままだと…!!」
ぶつかってしまった事を謝るのも忘れ、彼女は白衣の男性の足にしがみつき、必死に助けを求める。
その一方で彼女は、自分が今言っている言葉に対し、頭のどこかで疑問を感じていた。
このままだと………どうなってしまうんだっけ?
一瞬、彼の顔が苦痛に歪む姿が頭に浮かびそうになったが、それも微かに残る理性が中断させる。
それでも彼女の口は勝手に助けを求めていた。

はたから見れば、頭のネジが1・2本飛んでしまっている怪しい少女に助けを求められたその白衣の男性は、よっぽど肝が据わっているようで、顔色ひとつ変えずに、その場でしゃがみ、彼女の頭を撫でながら、女性にしか使わないいつもと同じ笑顔で彼女に語りかけた。
「面白そうな匂いがするね。落ち着いて、詳しい話を聞かせて貰えるかな? それにしても、やっぱり散歩はするものだね。ねぇ、タマ?」
「にゃ〜」

…彼女は混乱しながらも必死に白衣の男性に先ほどに起こった出来事を説明し、助けを求めようとする。
そして、説明していくうちに録画した映像の早送りのように、思い出してはいけない最後の風景を思い返してしまう…
それはもう彼女に残る微かな理性では抑え切れなかった…

とっさに私を庇った彼の腹に分厚いナイフが突き刺さる。
血に染まる食卓。
部屋に充満していたビーフシチューの良い香りが、急に酸っぱい鉄のような悪臭に変わる。
それでも彼は吐血する口を必死に開いて私に言う。
「逃げるんだ!!!」…

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」なんとか保っていた最後の理性が崩壊し、彼女は絶叫した。
ついに彼女、朝倉 柚子(あさくら ゆず)は思い出し、認めてしまったのだ。
彼、坂上 隼人(さかがみ はやと)は死んだのだと。


………今日は金曜日。
時刻は正午12時33分。ちょうど昼休みの真っ最中だ。
だというのに、まるで冬の夕方みたいにこの保健室はうす暗い。
青く澄み渡るはずだった空をどす黒い雲が何重にも重なって隠しているため、昼の暖かく明るい太陽の光が窓から入って来ないのがその理由である。
天気予報士の免許を持っていない俺でも、これから大雨が降る事を予想できる、そんな天気。
来週から待ちに待ったゴールデンウィークだというのに、6月の梅雨前線が先に訪れてしまった感じだ。
ちなみに、来週からのゴールデンウィーク、俺の予定は全く無い。ただ家でゴロゴロするだけなのだが、それでも一週間の長期休みは楽しみだったりするものである。

さて、そんな天気の今日は春とはいえ少し肌寒い。
よって、俺、一条 茘枝(いちじょう れいし)は目の前にいるエロ悪魔が一年中コタツを出し続けるズボラな性格に感謝しつつ、久しぶりに電源が入っているコタツに入り、ミカンをほおばっていた。
昔はミカンといえば冬の代名詞だったが、今では年中供給が可能な為、この春の時期でもミカンは安く、ほどよく甘い。

コタツでぬくぬく温まりながらミカンを食べる……この光景はなんとも日本風で平和だが、ここではどうにも違和感があり、その違和感は「今の時期が春である」というのを除いても3つはあった。

1つ目は俺が今コタツでぬくぬく過ごしているこの場所は、実は学校の中にある保健室だという点である。
なんでも、目の前にいるエロ悪魔の外見とは裏腹の趣味でこうなったらしい。
床は畳、部屋の真ん中にはコタツという和の仕様のため、この保健室にあがる為には学校だというのに上履きをぬがなければならない。
とはいえ、和の要素はそれだけであり、他は普通の保健室と変わらない。
様々な薬瓶や医療道具が置かれているスライド式の棚、職員用のスチール製の机と丸椅子、そして白を基調とした簡易ベットが2つ。
ようするに、和と洋がゴチャゴチャに混ざり合っている訳だが、不思議と嫌悪感は感じず、むしろ一種の協調性のようなものを感じる。
まぁ、今はドアとドアノブが完全に溶解してしまった為、その協調性は若干欠けてしまったが。

そして、2つ目の違和感というのがコタツを挟んで俺の目の前に座っている男である。
学校の皆からは「Dr.エンジェル」などと尊敬され、俺からは「エロ悪魔」と皮肉交じりに呼ばれているこの男はこの県立南御川高校の保健医であり、名を早乙女 カイン(さおとめ かいん)という。

この早乙女は確かに保健医なのだが、その容姿は全く保健医らしくない。
年齢は20代後半から30代前半。髪は首ぐらいまで伸ばしていて、その色は深い青。おそらくヨーロッパ系のハーフだと思われる色白で整った顔立ち。深い青色の髪と色白の顔に不思議と合う青色の右目と緑色の左目。両耳には、光を当てると六条の光を生ずる貴重なサファイア「スターサファイア」が中央にあしらってある銀製の丸いイヤリングをつけていて、左腕にはブルガリの高級腕時計の1つ「ディアゴノ」の20周年を記念して作られた、繊細で洗礼されたデザインと光沢があり重量感が漂うステンレススティール製のボディが見事に調和した超高級腕時計「ディアゴノ・カリブロ303」をさりげなく巻いている。
唯一、いつも身にまとっている白衣のみがなんとか早乙女が保健医だと証明している。

そんな外見からして医学知識が全くなさそうな早乙女が学校の保健医をやっているもんだから、学校中の生徒……特にケガをしやすい運動系の部活に入っている生徒はさぞかし不安でしょうがないだろうと思いきや、実際は全くの逆で、先ほども述べたが俺以外の生徒は全員、早乙女の事を「Dr.エンジェル」などと呼び、尊敬・信頼していたりする。

その理由は簡単で、早乙女は今までに白血病・マラリア・背骨にヒビなどといった、へたをすると死に至るような難病・ケガをいとも簡単に治してきた名医だからだ。
だから、些細な擦り傷を負った、とある男子生徒がばんそうこうを貰おうと保健室を訪ねたら、久しぶりに訪ねてきた生徒が女子ではなく男子だった事にえらく腹を立てた早乙女に傷口にマキロンではなくミカン汁を塗られようが、比較的美人だが病弱な、とある女子生徒が貧血のためにしばらくの間ベットを貸してもらおうと保健室に行ったら、ベットを貸して貰うついでにナゼか早乙女の実践を含めた特別性教育を受ける羽目になり、危うく大人への階段をのぼりそうになろうが、生徒は皆、早乙女を信頼しているのだ。 「いつもはああだが、いざという時には必ず助けてくれる」と。

………もちろん早乙女は、みんなが思っているような名医などではない。
というか、白血病・マラリア・背骨にヒビなどといった難病・ケガに対して、内科・外科という絶対的な専門的違いを軽く無視して一人で完璧に治療してしまう医者などこの世にいるはずもなく、もし仮に天文学的な確率で一人ぐらいいたとしても、ソイツが学校の保健医をしている可能性はもはや別次元的な確率だろうさ。

実際の所は、このような難病・ケガは早乙女がある一人の生徒を呼び出すために放送で使う嘘であり、その嘘のせいで勝手に様々な難病やケガにかかり、勝手に早乙女に完璧に治療された事になっていて、そのおかげで学校中の皆から「奇跡の男」などという本人からしてみれば不本意なあだ名を付けられてしまった、ある可哀想な一人の生徒とはまさに俺、一条 茘枝のことだったりする。

今だって、俺がこの保健室にいる理由は「この前の健康診断で胃にポリープが見つかったため、ガンの危険性があるので至急保健室に来なさい」というような内容の校内放送があったためであり、本来ならば俺の幼馴染である瀬々木 花梨(せせらぎ かりん)が作ってきた弁当を食べているはずである。
全く、今日の弁当は久しぶりの肉料理であるロールキャベツだったっていうのに半分も食べられなかった…。

まぁ、ここまでの状況説明はこのぐらいにして、話を先に進めようか。

そして、最後の3つ目の違和感というのが俺が呼び出された本当の理由…つまり、早乙女からある「仕事」の依頼を俺が受ける為なのだが、その「仕事」の内容がとてもじゃないが高校の保健室で話されるような内容とは誰もが思えない事にあった………

ヘビースモーカーである早乙女は煙草をうまそうに吸い、その煙を吐き出すと共に俺にこう言った。
「坂上家の父・母・次男は、長男である坂上 鷹史(さかがみ たかし)・長女である坂上 燕(さかがみ つばめ)に食べられたんだよ」

……………。
さすがに思考が一瞬止まり、言葉が出なくなる。

俺と同学年である坂上 隼人(坂上家の次男)が交通事故で亡くなったのが5日前。
俺や多くの人がその事故を知ったのが4日前。
多くの人がその訃報を悲しみ、忘れようとしていた頃、俺の友達でクラスの諜報員である九重院 晃(くじゅういん あきら)と俺は、その事故に対し、少しばかりの謎を抱いた。
そしてたった今、俺はこの事故…いや、事件の真実を知った数少ない一人になった。
とある事故が実は嘘で、本当は事件だった。と聞かされるのは、早乙女と関わる上で珍しくはないのだが、被害者が知り合いというのは珍しく、また、「エキドナ」が関わっているとはいえ、今回の事件はいつもより異常に思えた。

俺の動揺の隙を突くように、俺の脳が意思とは関係なく勝手に、坂上 隼人(さかがみ はやと)が人に食べられている姿を想像してしまう。
見本となるような笑顔を作った坂上 隼人という一枚のペラペラな等身大の紙が、人の形をした黒い影にせんべいのように食べられている姿。
バリボリ…バリバリ…バリボリ……
血は出ていない。黒い人影が大きな口を開け、紙の頭から順番に噛み砕き、飲み込んでいく。
ペラペラな坂上 隼人は頭から順番に消えていき、やがて黒い人影に全て喰われてしまった。
…俺の貧弱な脳が生み出したのはそんな非現実な光景だったが、それでもこの事件の異常さを改めて理解するのには十分だった。

人が人に食べられる。
食べられた坂上 隼人は俺と同じ学校に通っていて、バスケ部で、有名で、反則なぐらい笑顔が似合う奴で、その笑顔のまま花梨が作った肉まんを完食する凄い奴で、一回しか話した事がないが、俺と面識がある奴だ。
そいつが、血のつながった兄弟に食べられる?
あんまりじゃないか?
…だが、信じようが、信じまいが、早乙女が言うのであればこれが真実であり、これが「エキドナ」と呼ばれる者が起こす事件なのだ。

………。
奇怪な事件には慣れてはいるが、それでも俺は同情に似た感情を覚えずにはいられなかった。

そんな俺を尻目に早乙女は白衣の内ポケットから二枚の写真を取り出し、「一条、今回お前には鷹史か燕どちらか一人のみを殺してもらう」と言葉を続けた。


俺、一条 茘枝が高校の保健室で保健医の早乙女から極秘裏で受ける仕事内容とは「殺人依頼」である。
殺人というと聞こえが悪いが、殺すのは普通の人間ではなく、「エキドナ」と呼ばれる普通の人間では持ち得ない能力を得た異能者を殺すのが俺の仕事だ。
では、なぜ俺が殺人をするのか?
答えは簡単だ。
かくいう俺も「エキドナ」という異能者の一人であり、他の「エキドナ」に対抗しうる力(能力)を持っているからだ。
……なんて言ってみたが、そんなものは単なる建前で実際の所は、自分の「ある欲望」を満たす為に殺人をしたくなるのが本音な訳だが………まぁ、あまり気にしないでくれ。
それよりも、「なぜ、単なる高校の保健医である早乙女が殺人依頼なんか出すのか?」という点を気にして欲しいね、俺は。

これは少々説明が長くなる。
だから、眠くならないようにカフェインがたっぷり入ったコーヒーでも飲みながら聞いてくれ。

早乙女 カインという男、表向きは高校の保健医などしているが、裏向きは非営利国際組織「ラマルキズム」の組織員という、2つの顔を持っている。

非営利国際組織「ラマルキズム」

この世界では、物心がついている者なら誰でも知っている組織名だが、一応ここでは確認の意味も含めて、簡単に説明しよう。

「ラマルキズム」とは1世紀以上も昔、国と国では解決できない世界規模の問題(発展途上国への支援、地球温暖化、環境保全など自国の利益にはならないが、解決しないといけない問題)を非営利で解決するために設立された非営利国際組織である。

「非営利」という事はどこからか資金(それも大量に)を得る必要があったのだが、このシステムが良く出来ていた。
まぁ要するに、全ての国は自国の収入(GDP)の5%を「ラマルキズム」に献上しなければならないのだ。
逆に言えば、自国の収入の5%を「ラマルキズム」に献上しなければ、その国は国とは認められないという意味で、献上しなかった国が世界から見捨てられ、その国が崩壊したという話が1、2件あったとか…

当然ながら、「ラマルキズム」の設立がどっかのサミットで決まった当時、世界の反応は賛否両論………というか、ほとんどが否定や反対の意見だった。
とはいっても、そんな否定や反対の意見はすぐに賛成の意見に変わり、世界はすぐにこの「ラマルキズム」を認める事になる。

どうしてかって? そりゃ、もちろん「ラマルキズム」が数多くの功績を生み出したからに決まってる。

不良環境でも育つ作物、壊れたオゾンホールの修復法、貧困地帯における食と教育の安定した供給など「ラマルキズム」が生み出してきた功績は様々だが、中でも世界が「ラマルキズム」の存在を認めざるを得なくなった大きな功績はやはり、新エネルギー「テスラ・エルグエネルギー」の開発だろう。

「テスラ・エルグエネルギー」とは地球のコアに流れている地磁気とマントルの熱エネルギーを利用して生み出すエネルギーの事を指す。

この「テスラ・エルグエネルギー」は、旧エネルギー(化石燃料・原子力)の欠点を補った完璧なエネルギーだった。

まず、近いうちに必ず枯渇すると言われた化石燃料とは異なり、エネルギー源が地球の根源たるコアの為、理論的に考えれば地球の自転が止まらない限り無限にこの「テスラ・エルグエネルギー」を得る事ができる。
また、化石燃料は得られる地域が限定されていたが、「テスラ・エルグエネルギー」の場合、エネルギー源が地球の中心の為、どこの国、どんな場所でも平等にエネルギーを得る事ができる。

さらに、原子力よりも安全で、得られるエネルギー量も膨大だった。

つまり、世界は「ラマルキズム」のおかげで、半永久的で、膨大で、安全で、平等なエネルギーを手に入れたのだ。

そしてそれはすなわち、世界はもう「ラマルキズム」なしでは回れない事を意味していた。

今日では、全ての国・人々が「テスラ・エルグエネルギー」と「ラマルキズム」が開発した他の技術を利用し、快適な生活を送っている。

どこかの新聞社が行なった、小学生を対象にしたアンケート「将来なりたい職業は?」によると、2位は、野球選手・サッカー選手・お花屋さん・宇宙飛行士などが接戦を繰り広げていたが、1位はダントツに「ラマルキズムに就職すること」だった。

「ラマルキズム」は世界の人々にとって期待や安心、正義、羨望の象徴であり、「ラマルキズム」もその期待に恥じぬように今でも数々の功績を挙げている。


………とまぁ、以上の事が俺の新品同様の社会の教科書(授業中寝ていて、教科書を開かない為)に書かれている「ラマルキズム」の説明な訳だが…当然ながら、それでは早乙女が殺人依頼を出す理由にはならないし、早乙女が「ラマルキズム」の組織員という事を隠す必要性もない。

「ラマルキズム」という名前を出せば、よりモテるのが確実なのに、早乙女が「ラマルキズム」の名前を出さないのは、それなりの理由があり、その理由により早乙女は殺人依頼を俺に出している。

ようは、早乙女は教科書の書かれているような「ラマルキズム」の表の人間ではなく、教科書には決して書かれる事のない「ラマルキズム」の裏の人間だという事だ。

そう、「ラマルキズム」には一部の人しか知らない裏の顔が存在する。

ここからは、その裏の顔について説明したいと思ったのだが、さすがにこれ以上説明を続けても退屈するだけだし、もうコーヒーも飲み終わってしまった頃だろうから、これについてはまた今度改めて説明させてくれ。


早乙女が差し出した2枚の写真には、それぞれ一人ずつ人物が写っていた。
一枚には、私服姿のメガネをかけた知的そうに見える若い男性。もう一枚には、他校の学校制服を着た笑顔の女子学生。

「それが今回の対象である、坂上 鷹史と坂上 燕ちゃん」そう言いながら早乙女は煙草の灰をミカンの皮(灰皿)に落とした。

なるほど、確かに二人とも坂上 隼人に似ている。
坂上 鷹史は、坂上 隼人が仮にスポーツではなく勉強を中心に生きていたらなりそうな顔をしているイケメンで、坂上 燕は、坂上 隼人と同様に笑顔がとてつもなく似合う美人だ。

「坂上 鷹史。21歳。男性。坂上家の長男で、都内の国立大学に通っている大学生だ」と早乙女は真剣な顔で淡々と写真の補足を始めた。

「女性の方は坂上 燕ちゃん。17歳。私立の高校に通っている高校3年生。誕生日は9月14日。血液型はA型。テニス部に所属していて、ユニホームの白いミニスカートがとても魅力的らしい。趣味は特になし、強いて言うならショピングと友達とのおしゃべり。好きな食べ物、嫌いな食べ物は今どき珍しく、とりわけなし。得意科目は社会。犬か猫どちらが好きか? と問われれば、俺と同じく猫派。最近の悩みは耳にピアスを開けるかどうか。初恋は小学4年生。おっと、すまん一条。俺としたことが重要な情報を伝えるのを忘れていた。スリーサイズは上から………」

もういいわ!!!
あまりにも早乙女が真剣に話すせいで、長々と聞いてしまっていた自分が恥ずかしい。
「なに!? 一条、お前はこんなにも重要な情報をいらないというのか?」早乙女は驚愕の顔を作る。

いらねーよ。単なるエロ悪魔の趣味じゃねぇか。

「俺の趣味? ふっ、まだまだ未熟者だな一条。まず敵を知らねば勝てる戦いも勝てない事を知らないのか?」

勝手に勝ち誇った顔を作って、それらしい理由を付けるんじゃねー。じゃあ、さっきの坂上 鷹史の情報も詳しく教えやがれ。

「え? 男の情報なんて調べても意味ないじゃん」早乙女は当たり前のように言い放った。

…やっぱ、趣味じゃねぇか。

気を取り直し、俺は最初に気になった事を口に出すことにする。
一人だけ殺すっていうのはどういう意味だ?

「そのままの意味だ。一人は殺し、一人は捕縛する」

おいおい、俺に捕縛は無理だぜ? 俺は殺人専用のバイトのはずだろ?

「分かってるよ。だから今回はだるいが、俺も一緒に行き、一人を捕縛する。一条には残りの一人を殺してもらう」

早乙女が一緒に来るなんて珍しいな。

「まったくだ。俺もできれば男となんか出かけたくないさ。まあ、今回は少し知りたい事もあってな。それに、女の子に助けを求められたとあっては紳士として約束を放棄する訳にはいかないのさ」と、早乙女は吸い終わった煙草の火をミカンの皮で消しながら軽々しく口にする。

助けを求められた? 誰に? いつものように、組織から指示されたのじゃないのか? と、俺が何気なく尋ねてみると、

「朝倉 柚子ちゃん」と、ありえない人物の名前を早乙女が口にした。

は? おもわず、間の抜けた返事をしてしまう俺。
なぜなら、俺の知る朝倉 柚子は今も植物状態として、体を動かす事もしゃべる事も思考する事もできずに、ただベットの上で生きているだけの状態のはずだ。そんな彼女に早乙女は助けを求められたと言っているのだ。
となると、朝倉が植物状態という情報もウソなのか?…と、俺のそんな頭の中での疑問を察したのか「柚子ちゃんが植物状態だという話は本当だ」と早乙女は付け加える。

「今の間の抜けた返事から察するに、坂上 隼人の事だけでなく、その彼女、朝倉 柚子ちゃんの事も少しは知っているようだな、お前にしては本当に珍しいな一条」

まぁ、たまにはな。それより、どういう事だよ? 植物状態の人間から助けを求められたって?

「簡単なことだ。植物状態に陥る前の彼女に助けを求められた。坂上 隼人がその兄弟である坂上 鷹史と燕に殺された際の唯一の目撃者が朝倉 柚子ちゃんでな、現場から逃げ出し、錯乱状態ところを俺が偶然発見し、病院に送ったっていう話さ。植物状態になったのはその後。そういや、彼女が事件の目撃者という情報は非公開だったな」

!? 

……流石は九重院だな。
早乙女の話を聞き、ふと、俺が始めに思ったのはそんな脱線した事だった。
「茘枝よ。拙者はな、ただ愛しい人が死んだと聞いただけではあそこまでの状態にはならないと思うのだ」
「……つまりだな、拙者が思うに、朝倉 柚子は坂上 隼人の死をただ聞いただけではない。それよりももっと強い精神的な衝撃を受けたとは考えられんか?…例えば、坂上 隼人が死ぬところを見てしまったとか……」と、今朝登校中に九重院と話した内容を思い出し、九重院の謎を見抜く力に感心と、なぜだか軽い危惧感を感じる。
あの時、九重院を事件から遠ざけたのは正解だったのかも知れないな。

朝倉 柚子を最初に発見し、病院に運んだのが早乙女? という意外な事実を確認する素朴な疑問を口に出すことで俺は自分の頭を元の路線に戻すことにした。

「あぁそうだ。あの日はこの前の日曜だったか。夜にタマの散歩をしてたら、走ってきた柚子ちゃんとぶつかってな。様子はおかしかったが、可愛い女の子だったもんで試しに声を掛けてみたら、助けを求められてな。詳細を聞こうとしたが、相当混乱してて話しは部分部分しか聞けず、しかも最後の方で心が壊われたって訳。絶叫しかしなくなったからしょうがなく病院まで運んだ。いやはや、あの時は服装と髪型とメイクが乱れていたとはいえ顔は可愛かったのに…そんな子が植物状態だなんてもったいないとは思わないか、一条? しかも後々調べてみたら柚子ちゃんはうちの学校の生徒だろ? 俺とした事が今までそんな可愛い子のことを知らなかったとはなんという迂闊。もっと早く知っていれば……本当に残念だ」と、新しい煙草に火をつけながら軽々しい口調で言う早乙女の顔は全然残念そうには見えなかった。

学校の先生の一面が全く見えないエロ悪魔の暴言はこの際完全にスルーした俺は、早乙女が毎晩欠かさずに行っている飼いネコの「タマ」との散歩について、「あれを本当にネコと言ってよいのか?(まぁ、今では俺もあれはネコだと完全に認識してしまったが)」「ネコにリードをつけて散歩をするのはおかしくないか?」という小さな疑問を覚えたが、それは今に始まった事ではないので、頑張ってそれもスルーし、早乙女が朝倉から聞いたという事件の詳細を訊ねる事にした。

早乙女が、混乱した朝倉から聞いたという事件の詳細は以下の通りである。

五日前の日曜日、事件当日。坂上 隼人と朝倉 柚子は水族館へデートに出かけた。
その帰り、朝倉は初めて坂上 隼人に「うちに来ないか?」と誘われ、坂上 隼人の家に遊びに行ったそうだ。
坂上の両親は不在だったが、坂上 隼人の兄である坂上 鷹史、姉である燕は家におり、朝倉を優しく歓迎してくれた。
ちょうど夕食の時間帯だったこともあり、姉である坂上 燕はビーフシチューを作っていて、朝倉は一緒にご馳走して貰う事になった。
坂上 隼人が言うには、両親が不在で、姉の燕が料理を作るのは珍しいらしく、姉の料理の腕は未知数らしい。
少し不安だったが、坂上 燕が作ったビーフシチューは見た目も良く、見た目を裏切らずおいしかった。

しかし、異変はそこから始まる。

朝倉の隣に座り、同じく姉のビーフシチューを食べた坂上 隼人が突然立ち上がったのだった。
その勢いで彼が座っていたイスが倒れる音だけが部屋に響く。
驚いて朝倉は坂上 隼人の顔を見ると、そこには今まで見たこともないような驚愕した様子の隼人がいた。
朝倉は苦笑した。お姉さんの料理が意外にもおいしかったからといって、そこまで驚くのはお姉さんに失礼でしょと思うと同時に微笑ましく感じたからだ。
しかし、そんな朝倉の苦笑は前に座っていた坂上 鷹史と燕の口から出る不気味に笑い声と共に吹き飛ばされる事になる。
その時点で朝倉は今の現状から置いていかれた。
坂上 隼人が鷹史・燕と何か口論を始めても朝倉はオロオロしながら様子を見守ることしかできない。
そして、坂上 隼人は朝倉の目の前で兄である坂上 鷹史にナイフで刺されたのだ。

ん? そんな奇怪な話を聞きながら俺は、ある一つの内容に大きな違和感を感じていた。

ビーフシチューを食べて、坂上 隼人が驚愕した?

確かに、俺以外の人が今の話を聞いたとしても隼人がビーフシチューを食べた辺りから何らかの異変が起こったと推測できるのだろうが、俺の場合それは推測と呼ぶにはあまりにも大きな違和感だった。

なぜなら………あいつ、坂上 隼人は花梨が作った肉まんを何事もないように美味しそうに食べた奴なんだぜ!?

俺いわく世界一不味いと評判の花梨の「中華」である肉まんを、この前の球技大会の日に坂上 隼人が「おいしかった」とフレッシュな笑顔を浮かべながら完食した映像は今でも鮮明に覚えている。
そんな完璧な人間が、姉の作ったビーフシチューがどんな味だろうと、どんなに美味しかろうと、驚愕するはずがない。

花梨の作った「中華」と坂上 燕が作ったビーフシチューの違い…俺がその違いについて少し考えていると、前に座っていた早乙女が「※※※※※※」と、その違いの一つをあっさりと口にした。
えっ? その言葉があまりにも軽々しく、あっさりと言われたので俺は聞き逃してしまい、もう一度、早乙女に聞き返す。

「だから、坂上 燕ちゃんが作ったビーフシチューの中に入っていた肉は、人肉だったんだって」再び、早乙女があっさりと口にした。

なっ!? 

「柚子ちゃんを病院に送った後、確認する為に現場に向かったが、すでに鷹史と燕ちゃんの姿はなく、代わりに坂上の両親の遺体が俺を出迎えてくれたよ。そんで、一階のリビングに残されていたビーフシチューにはその両親の肉が使われてた事が後の調査で分かったって訳。ちなみに坂上 隼人の遺体も後日、違う場所で見つかっている。な? 今回の事件は特に面白いと思わないか? 一条」と、早乙女は紫煙を吐きながらニヤリと笑う。

まったく、思わん。俺は即答した。
………今回は驚きの連続で自分がここにいる理由を忘れていた。
これはエキドナ事件であり、一般の常識など通用しない。
最初、早乙女から坂上 隼人が食べられたと聞き、俺は生身の生きている人間がそのまま食べられたと勝手に想像してしまっていた。
そういう先入観があった。
なぜなら、よく映画とかに出てくるゾンビやエイリアンなどの怪物は生身の人間をそのまま食べているからだ。
現実では十分に常識外だが、そのような映画などで頻繁に見かける点において、生身の人間が生きたまま食べられるというのはある意味、常識の範囲内だった。
そのような常識の範囲内で考えていたために俺は想像できなかったのだ。
坂上 隼人と坂上 燕というエキドナは、殺した人間をしっかりと調理してから食べるという事実を。

…狂ってやがる。
ぽつりともらした俺の一言を、早乙女の「それはお互い様だろ」というセリフであっさりと返されてしまった俺は、反論できなかったので、話を進ませることにする。

二人とも捕縛して、『施設』に送らなくてもいいのか?

「あぁ。一人で十分だ。食人…すなわちカニバリズムなど普通の人でも頑張れば可能だ。よって、組織はせいぜいエキドナ開花率は10.5パーセントぐらいとみている。だが、人を食べる能力は珍しいからな。組織としては一人確保できれば十分との意向だ。それに彼らはすでにこの御川(みがわ)市内で9人を殺害し、食っている。矯正させるのも、兵として使う事も不可能だと上は判断した。だから、お前は安心して心おきなく一人を殺してくれ」

っ! もう9人殺されただって? ちょっと待てよ、テレビのニュースを見る限りじゃ最近、御川市内で死んだのは坂上家だけだろ。

「坂上家の場合は一度に3人が殺されたからな。テレビで取り上げられるようなデカイ事件にしなければ隠し切れなかったのさ。その後は一人ずつ別々の場所で殺害された為、よくある交通事故や自殺・病死などで対応した。実際、ニュースにはなっていないもの、何件かは地元の新聞で取り上げられている。たまには新聞を読め、一条」

余計なお世話だ。
にしても、坂上 鷹史と燕は食人と過剰食欲能力を持つエキドナって訳か。それでエキドナ開花率10.5パーセントっていうのは低すぎないか? 12パーセントぐらいはありそうだぞ。

「は? 俺がいつ鷹史と燕ちゃんが過剰食欲者だと言った?」早乙女は首をかしげる。

だって、この5日間で9人が殺され、食べられたんだろ? 考えたくもないが、普通の人間2人が5日間で人間9人分相当の肉を食べるのは不可能じゃないか。

俺のそんな問いに早乙女は、はぁ〜とため息をつきながら「一条、お前は焼肉屋に行ったら何を注文する?」などと唐突な質問をしてきた。

は? そりゃ、まずはカルビで次は………って、おい、まさか!! 早乙女の質問に対し、意外にも素直に答えようとした俺は早乙女が言いたい事に気がついてしまった。

まさか…鷹史と燕は特定の部位しか食べていないのか!?

「ご名答」早乙女が口元をニヤリとさせる。
「最初の方の被害者は様々な部位を食べられた形跡があるが、最近のは特定の部位しか食べられていない。作られた人肉料理は、ビ−フシチュー・ハンバーグ・コロッケ・ミートソーススパゲッティなどと多岐に渡り、食べる部位も限定されてきている。実にグルメだと思わないか? 一条」

思いたくもねーよ。
てーか、余計な事を言いやがって! 当分の間なんとなくビーフシチューとハンバーグとコロッケとミートソーススパゲッティは食えなくなっちまったじゃねぇか。
俺が食えない料理は花梨の「中華」だけで十分だっての。

「お前の推理力が足りないからいけないのだ、一条。もし仮に鷹史と燕ちゃんが異常食欲者だとしたら遺体のほとんどが食われ、身元や数を正確に把握するのは不可能だろ」

分かったよ。俺が悪かった。
だから、これ以上詳しい話をするのは止めてくれ。
いい加減、気持ち悪くなってきた。
それで? 俺たちはこれからどうするんだ?

「今まで鷹史と燕ちゃんの足取りは転転としてて掴みにくかったが、さっきようやく潜伏先を掴んだとの連絡があった。俺たちはその潜伏先に行き、さっさと仕事を行う」と早乙女は簡潔に言い、「よって、今日の放課後再び保健室に来い」と話を締めくくった。

りょーかい。
承諾した俺は、自分の教室に戻るべくコタツから出たのだが予想よりもコタツの外は寒かった為、またコタツに戻ろうとする。
だが、ふと保健室の時計を見ると、長く話しすぎたせいで昼休みはとっくの昔に終わっていて今は午後の授業の真っ最中だと気づいた為、名残惜しいがすぐに教室に戻るとしよう。

俺は慌てて上履きを履き、保健室から出るべく少し溶けてしまっているドアに手をかけたところで、「そういえば、一条。少し聞いてもいいか?」と後ろから早乙女に声をかけられた。

まだなんかあるのか? 授業中でもコタツにくるまって、ゆっくりとミカンの皮を剥いているどっかの保健医とは違い、俺は忙しい学生なんだぞ。

俺のそんな訴えを「授業中寝ることがそんなに忙しいのか」と軽く流した早乙女は「今回の事件で1番の謎があってな、それが未だに分からん。どうして、坂上 鷹史と燕ちゃんの二人は人間を食べると思う? 一条」と質問してきた。

どうして、人間を食べるかって………そりゃ、試したくはないが美味いからじゃないのか?

それしか考えつかなかった俺の考えを「それは、ありえないんだよ。一条」と早乙女はバッサリと否定した。
「人肉がおしいはずがないんだよ一条。なぜ、普段食べている牛や豚、鶏などの肉がおいしいと思う? それは、我々人類が自分達の味覚に合うようにそれらを育成・改良してきたからだ。だが、人間は食べられる事を前提として育ってはいない。そんな人間を食べたとしても、骨や皮、筋肉などの繊維ばかりで絶対に不味いんだよ」

だったら、なぜ人を食べるんだ? と俺は早乙女に尋ねる。

「それが分からないから今回の事件は面白いと言っているのだ、一条。とはいっても世界に人肉を食べる習慣がなかった訳ではない。例えば、古来ニューギニアの一部では宗教や死者への供養の意味合いでカニバリズム(人食)は行われていたし、たんぱく質の供給が乏しかった地帯は仕方なくカニバリズムを行っていたという記録も残されている。また、性的な意味合いでカニバリズムを行った人間も少なからず存在した。だが、今回のをそれらに当てはめるのは難しい。今の日本にそんな宗教などあるはずもなく、ましては豊かな日本において、たんぱく質が不足するのはありえない。そして、二人そろってカニバリズムに性的興奮を覚えるとは思えない。今回の二人は特定の部位を好んで食べている事からやはり一条が言った通り、人肉が美味しいから食べるという説が1番近いとは思うが、先ほども言ったが、多少の違いはあれども人肉は不味い。まだ何か一つ足りないと思わないか?」とミカンをモグモグ食べながら暇な保健医は熱弁した。

なぜ、坂上 鷹史と燕の二人が人間を食べるのか?
それが分かれば、なぜ殺された坂上 隼人がビーフシチューを食べた際に驚愕したのかも分かるのだろう。
だが、俺達にそんなことが分かるはずもない。
分かるとすれば、それは…
しらねーよ。そんなことは本人に直接聞けばいいだろ。と俺は早乙女に言った。
「それもそうだな」という早乙女の返事を確認した俺は今度こそ保健室を出ようとしたのだが、「一条、お前は坂上 鷹史と燕のどちらを殺したい?」という早乙女の声に再び止められてしまった。

そりゃ――燕だろ。俺は即答する。

「ほぅ、やはり女性の方が良いのか?」

まぁな、と返事をしながら俺は保健室を後にした。

今日は天気が悪く、授業中ということもあり、廊下は暗く静まりかえっていた。
聞こえる音は、外からのポツポツという雨が降り始めた音だけだ。
久しぶりの仕事(殺人)だな。
自分の教室に戻りながら俺はふとそんな事を思った。
廊下の窓が、小さく笑う俺の顔をうっすらと映し出していた。



第四話に続く

inserted by FC2 system