腐ったやきそばパンを食べて、ゾンビになり、意識を失った僕。
それなのに――、
「オイ、起キロ」
耳朶を打つ機械音声に意識は再び覚醒した。
「こ、ここは……?」
まだクラクラする頭を押えて、辺りを見渡す僕。
真っ白い部屋、僕は見覚えがなかった。
「ココハ、オ前ガゾンビニナッテカラ数百年後ノ世界。我々ロボットデハ、ゾビコニ勝テナイ為、コウシテオ前ノゾンビ化ヲ治シタ」
再び、僕の鼓膜を震わせる謎の機械音声。驚いて発生源を見ると、そこにはドラム缶に手足を付けたようなロボットがいた。
全然分からない現状。
けれども、ゾビ子という単語を聞いて、僕の記憶は覚醒した。
それは、僕がゾンビになってしまう前の記憶。
ゾビ子さんというゾンビの美少女が、己の美貌で学校を支配してしまった時の記憶。
僕は学校を救おうと、世界を救おうと、愛するゾビ子さんを殺すことを決意した。
だが、できなかった。
ゾビ子さんとの思い出であるやきそばパンが邪魔をして。
だから、その迷いを断ち切るため、僕は彼女の目の前で、泣きながらやきそばパンを食べた。……まさか、そのやきそばパンの賞味期限が切れてるなんてね。まあ、当然の結果だけど。
僕はゾビ子さんを救えなかった。
これはゾンビとしての本能だけであり、私の意志じゃない。と号泣していたゾビ子さんを僕は救うことができなかった。
そして、数百年が経った現在。
まだゾビ子さんは誰かの救いを待っているらしい。
僕は立ち上がる。愛する彼女を今度こそ救うため。
「行クノカ? デハ、コレヲ持ッテイケ」
ロボットが渡してくれたのはやきそばパン。僕のために用意してくれたらしい。
礼を言ってから、僕はやきそばパンを握り締めて駆け出した。
……僕は気付くべきだった。ロボットには賞味期限という概念がないことに。
そうして、一行目に戻るのであった。
End