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ゾンビのゾビ子さん

 ゾンビが地球の半分を滅ぼしてから数百年後。
 進化したゾンビが人権を得てから数年後。
 ついに、僕の学校にもゾンビ転校生がやってきた。
「みなさん、初めまして。ゾビ子といいます。これからよろしくお願いしますね」
 可憐な声と妖艶な笑み。
 教卓の前で自己紹介したゾビ子さんは、一瞬にして僕たち三年A組の男子陣、全員の心を鷲掴みにした。
 血が通っていないゆえの陶器のような白い肌。僕たちを食料としてしか見ていないからこその艶やかな笑み。
 進化したゾンビは、外見は人間と変わらないし、自我もちゃんとあるから、これからは私たちと同じように扱いましょう。と、テレビでは言っていたが、それはウソだと思った。
 もちろん、ゾビ子さん自体の素材が良いというのもある。しかし、ゾンビとの恋愛禁止という法律からくる背徳感も含め、三年A組の男子……いや、僕は彼女に夢中になった。

 僕の中でアイドルとして偶像化したゾビ子さん。
 けれどもそのおかげで、僕はゾビ子さんからの誘惑になんとか耐えることができた。
 例えば、僕が昼ごはんにやきそばパンを食べている時。
「ねぇ、やきそばパンなんかよりも、ソーセージパンのほうが美味しくない?」
 と、僕がかじったやきそばパン――その、やきそば部分に白くて華奢な指を走らせるゾビ子さん。
 そして、ソースで汚れた指をチロチロと妖艶に舐める。僕を上目遣いで見ながら。
 あれはヤバかった。ゾビ子さんの肉欲と僕の肉欲は違うというのに。

 ――そして数ヵ月後、学校中がゾンビで溢れ返った。
 ゾビ子さんの誘惑に、僕以外の皆が耐えられなかったのだ。法律で禁止されているのにも関わらず、自我が腐ったかのように皆がゾビ子さんを襲った……ゾンビだけに。
 いま僕は宝物のやきそばパンを握りしめて、校舎を睨む。
 愛する彼女を殺すために。

End

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