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天使のチョコボール

『完売』そう書かれた張り紙を前にして、俺はガクリと膝を床に落とした。
昼休みの時間に頑張って高校を抜け出し、一番近くのコンビニに駆け込んだにも関わらず、チョコボール(ピーナッツ)の箱は一つも商品棚に残っていなかった。
「くそ……」
俺の呟きは、店内を流れるポップなBGMによってかき消された。

チョコボールという商品には昔から画期的なシステムがあった。
――天使システムと呼ばれるソレは、箱を開封する際、低確率で天使のイラストが出現し、手に入れた者は賞品を獲得できる。
その賞品は子供向けの物ばっかりだったという事実は過去の話。
今の賞品は「なんでも一つだけ願いが叶う」というのだから、老若男女問わずチョコボールを買い漁る。
チョコボール戦争の始まりである。

そして今、俺はその敗者の一人だった。
「こうなったら、ストロベリーを買うか?」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
そう、ピーナッツは売り切れていたが、ストロベリーは残っている。
しかし、ストロベリーは甘すぎる。俺ではせいぜい三箱が限界だろうが、買わないよりはマシだろう。
だが、俺が手を伸ばそうとした時には、ストロベリーは全て無くなっていた。
一人の女性の手により十箱全て奪われたのだ。
「甘党のミキ!」
ストロベリーを一気に十箱も食べられる女子中学生。
その怪物がレジに向かう後姿を俺は、ただただ見つめることしかできない。
「ならば、キャラメルしかない」
俺は最後の希望に手を伸ばす。その弾力性から一箱が限界だが、何も無いよりはマシだ。
それすらも全て無かった。
「団長のユウヤ!」
応援団で鍛えられたノドで、キャラメルを飲み物のように消化できる怪物がそこに居た。

End

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