世界の時間は止まっていた。
動けるのは2人の男女だけだった。
男女は出会ったばかりだったが、すぐに惹かれあった。
止まった世界で2人は何でもやった。
止まったレストランで勝手に料理を食べ、
止まったホテルに勝手に泊まった。
男は止まった宝石店から指輪を勝手に頂戴し、女にプレゼントした。
止まった世界でも2人一緒なら寂しくなかった。
2人は今、手をつないで夜空を見ている。
2人は気づいていた。もうすぐ世界が再び動き出す。
そして、それは2人の世界が終わるという事だった。
それでも怖くはなかった。2人は今、一緒にいる。
そして、世界は再び動き出す・・・
ガギャギャゴギャーー。
それはものすごい音だった。
信号は青だった。でも、車が突っ込んで来た。
車の前には女がいた。それに気づいた男が女を助けようとして飛び出した。
僕にわかるのはそれぐらい。
その結果、僕の目の前に悲惨で不気味な光景が広がっている。
辺りには甘酸っぱいような血の匂いが充満している。
素人目でも分かった。2人はもう死んでいる。
だけど、2人は笑っていて、手をつないでいた・・・
これは、夕方に悲惨な事件としてニュースに流れた。
その後、ある宝石店からひとつ指輪が盗まれたという、どうでもいいニュースが流された。
人々は気づかないだろう、その指輪は死んだ女の指にはめられていた。
End