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迫り来る姉

目の前のドラゴンは瀕死だ。あと一撃でも剣が入ればヤツは倒れる。
そう思うと、コントローラーを握る手が震えてくる。

瞬間、目の前が真っ暗になった。
え? と声を出そうとして、全く声が出せない事に気付く。
というか、息ができない。つまり、俺の顔は何かに完全に塞がれたのだ。とてつもなく柔らかいものに。
必死にもがくが、抜け出せない。
唯一、外気に触れている耳だけが、さっきまで俺がプレイしていたテレビゲームの音を無情にも拾っている。画面内の主人公(俺)が、ドラゴンに貪り喰われているゲームオーバーの音を。
だが、悲しんでいる余裕はない。このままでは現実の俺もゲームオーバーだ。
仕方ない。俺は、覆いかぶさっている現実のドラゴンを、力いっぱい突き飛ばした。

床に転がっていくドラゴン――もとい、姉。
「優君ただいまぁ〜」
姉は、ダメージなく起き上がった。大きな胸が揺れる。
俺はアレのせいで窒息になっていたらしい。なんて凶悪なんだ。
「優君、お酒買ってきて〜」
再び、迫り来る姉。
俺は、必死に姉の顔をつかんで防ぎながら、抵抗の声をあげる。
「酒くさっ! なんでだよ。今日は友達と飲んできたんじゃないのかよ?」
「そうだったんだけど〜、途中で友達に追い出されたのぉ〜。だから、飲み足りないのぉ」
「追い出された? なんで?」
「それが、分からないのぉ〜。貧乳の友達に、胸が大きくなるように、私のブラジャーを頭に乗っけてあげたら急に怒っちゃたのぉ〜」
俺はすぐに立ち上がった。玄関に向かう。
「あはっ。お酒買ってきてくれるのぉ?」
「ちげぇよ! 謝罪に行くんだよ。買うとしても折り菓子だよ!」
「じゃあ、その後でいいから買ってきてぇ〜」
はぁ。俺はため息をつきながら外に出る。
折り菓子と、度数の低い酒を買うために。

End

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